予報士

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 脈絡もなくなんだ? 天気がいいとものもらいは酷くなるとか、そういうことでもあるのか?  訳が判らず、思いつくままに聞いてみたが、同僚の反応は乏しいものだった。相変わらず口は利かず、ただただ困った顔をして、俺の追及が途切れると同時に『お先に』とだけ告げていなくなった。  何だよあれ。まったく意味が判らない。  ひたすらそう思っていた俺が、同僚の言葉の意味を朧に理解したのは翌日のことだった。 * * *  確かにハレた。  空でも目でもなく今度は指が。  ものもらいの視界の悪さで、出社直後にうっかりと、替えられたばかりの花瓶に手を突っ込んだ。その結果、俺の指は腫れあがった。  取り替えられたばかりの花にミツバチがたかっていて、俺は不運にもそいつに刺されたのだ。  周りはスズメバチとかじゃなくてよかったと言ってくれたけど、ミツバチだって痛いものは痛い。  結局、昨日は午前だったけれど、今日は午後から半休をもらって早退することになった。  そうやって帰ってからずっと、俺は同僚に言われたことを思い返している。  二日に渡って告げられた言葉。  明日、ハレル。  あれはもしかしたら、『晴れ』じゃなくて『腫れ』。俺がものもらいに罹ったり蜂に刺されたりするって意味だったんじゃないだろうか。  気になるのと蜂刺されの痛みでその日はほとんど寝られなかった。そのふらふらの状態で翌日は出社した。  奴はどこだ?  会社に着くなり同僚を探す。すぐにそいつは見つかった。 「お前、何なんだよ? 昨日と一昨日言ってた『ハレる』って、こういう意味なのか? 何か知ってるなら教えろよ」  詰め寄っても同僚は口を開かない。ただただ困った顔で俺を見返すばかりだ。  根競べの気持ちでじっと睨み合う。正確には、俺が一方的に同僚を睨みつける。  そうしたらやっと観念したのか、重すぎる口が開いた。けれどそこから出てきたのは俺の望む答えじゃなかった。 「明後日、雷が落ちる」 「は? 雷?」  オウム返しにつぶやくとこくりと同僚は頷いた。だけど俺の方は戸惑うばかりだ。  二度に渡って当たった俺の今後予報。その信憑性の高さを俺は信じ出している。
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