第一章 消えた恋人

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第一章 消えた恋人

1 またやってしまった、と彼女は思った。 けれど別に後悔はしていない。悪いのはこいつらだ、と開き直ってもいた。 そして真向かいに立ち、その光景を見ていた少年もおそらく、またやったのかと思っているのだろうが、もう何回も見慣れているせいか、すでに諦めているようだった。 辺りは真っ暗で、持っている提灯の灯りがないと人の顔も見えない程だったが、江戸・深川の岡場所から近いこともあってか、人の声や三味線の音は微かに聞こえていた。 そんな夜の宴音が聞こえる中、彼女……紫乃は地面に突っ伏している男二人を見下ろす。さすがに今月で三度めは多いか、と自分でも思った。
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