1 感電死

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1 感電死

 時は1990年3月、栃木県向日葵町に住む大学進学を控えた少年・太巻タケルは、ラジオから流れてきた尾崎豊の『15の夜』のイントロに衝撃を受け、ミュージシャンに憧れる。高校に進学したタケルは、八百屋育ちの新井ミサキ、寺の跡取りの勝田ヒロユキ、医者の息子の真田一郎といった一癖ある仲間を誘ってロックバンドを結成する。しかし彼らには楽器がなく、夏休みのアルバイトでお金を稼いで楽器を手に入れ、いざ練習となると場所の確保に一苦労…といった苦難を乗り越え、ようやくバンド『勝新太郎』の活動がスタートする。横浜での夏休みの合宿のとき、風呂場で感電死している宿泊客を見てしまったミサキは口が聞けなくなってしまう。  亡くなったのは大沢健っていう不動産屋だった。犯行時刻、ホテルの玄関は鍵がかかっていた。また、宿泊客全員のアリバイが確認された。 「こりゃあ妖怪の仕業かも知れないわね?」なんて、神奈川県警の美人刑事、門脇咲は言っていた。  親しい先生との死別などを経験しながら勝新太郎は向日葵駅前にあるスナック『プライム』の開店イベントでデビューを果たす。そして3年生の文化祭のコンサートを成功させた。文化祭の後、メンバーはそれぞれの進路に向かって準備を始め、バンドの活動は低調なものとなる。タケルは東京の大学を進路に定めた。  ミサキは街の外れにある図書館で『妖怪辞典』を読んでいた。  中国の伝承においては、冥界には一定の人口が定められており、この人口を常に保つ必要があるため、死者が別の人間として転生して冥界を去ろうにも、自分に代わる後任の死者が冥界に入らなければ、転生の許可が下りない。このとき、死者が生者の死をただ待っているだけではなく、積極的に自殺や事故死を幇助することで自分の代替を求めることを「鬼求代」という。亡者が生まれ変わるには他者に自分と同じ死に方をさせることが条件らしい。  門脇が言ったように大沢は怪物に殺されたんじゃ?例えば感電死で亡くなった亡霊によって始末された。  クワバラ、クワバラ。
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