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5 置いてけ堀
江戸時代の頃の本所付近は水路が多く、魚がよく釣れた。ある日仲の良い町人たちが錦糸町あたりの堀で釣り糸を垂れたところ、非常によく釣れた。夕暮れになり気を良くして帰ろうとすると、堀の中から「置いていけ」という恐ろしい声がしたので、恐怖に駆られて逃げ帰った。家に着いて恐る恐る魚籠を覗くと、あれほど釣れた魚が1匹も入っていなかった。
この噺には他にも
「現場に魚籠を捨てて逃げ帰り、暫くして仲間と一緒に現場に戻ったら魚籠の中は空だった」
「自分はすぐに魚籠を堀に投げて逃げたが、友人は魚籠を持ったまま逃げようとしたところ、水の中から手が伸びてきて友人を堀に引きずり込んで殺してしまった」
などの派生した物語が存在する。
東京の堀切駅近くの地にもかつて置いてけ堀と呼ばれる池があり、ここで魚を釣った際には3匹逃がすと無事に帰ることができるが、魚を逃がさないと道に迷って帰れなくなったり、釣った魚をすべて取り返されたりするといい、千住七不思議の1つとされた。
また埼玉県の川越地方にも「置いてけ堀」という場所があり、やはり魚が多く釣れるにもかかわらず、帰ろうとすると「置いてけ、置いてけ」との声が魚を返すまで続いたという。
本所の置行堀の怪異の正体は諸説ある。根強いのは河童の仕業という説とタヌキの仕業という説である。
2018・4・28
蛙が最近やかましい。まだ4月なのに桜は既に散ってしまった。勝田は腰をしきり叩いていた。
「50も近くなるとツラいよな?」
太巻と勝田は伊東にやって来た。
大岡橋から松川を眺めた。海へと注いでいる。敷石の歩道が設けられ、大正浪漫の雰囲気だ。
「最近、松川で釣り人が水死したらしい。何でも魚籠には鯉が3匹入っていたそうだ」
太巻が言った。
「置いてけ堀の仕業だ」
「カッちゃんそんなもの本気にしてるの?坂本冬美の『夜桜お七』に出てくるよな?」
「おいてけぼーりを蹴飛ばしてー、かーけだーす指に血がにじむ」
勝田が長靴と靴下を脱いだ。血豆が出来ていた。
「こりゃあやっぱり河童か狸の仕業だ」
太巻は静岡県警の知り合いに尋ねた。
「ありゃあ事故死っすよ?自分の子供を助けようとして死んだっす」
「可哀想になぁ?で、子供の方は」
「まだ見つかってないっす」
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