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「さいたーさいたーチューリップのー」 「摘んではいけません、殺してしまいます」 「あ、お兄ちゃん!」 りこは声のした方を振り返る。 広い庭に、綺麗に手入れの行き届いた花壇、そこには色とりどりのチューリップが咲いていた。 「母さんに見せようと思って...」 りこは、チューリップの茎に伸ばしていた手を引っ込める。 「咲いたばかりのチューリップです、生きてます」 お兄ちゃんは特有の早口でそう言った。 「お兄ちゃん?」 「空」 お兄ちゃんは空を指さす。 「大地」 お兄ちゃんは花壇を指さす。 「そのおかげでこのチューリップは咲きました」 「うん、そうだね。写真とかにしようか!」 「はい、その方がいいです」 誰が何て言おうと僕はお兄ちゃんが大好きだった。 母さんには入るなと言われた、父さんの書斎に入って2人で沢山の事を学んだ。 本を読んでる時のお兄ちゃんはとても幸せそうで、その幸せそうなお兄ちゃんの顔を見るだけで僕も幸せだった。
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