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七章
太陽が観客席と俺たちが今から走るトラックを溶かしつくすように照らしている。
今日は陸上の大会だった。
普段顔を合わせない他の学校の人たちがいるおかげで、いつもよりメンバーの結束が固くなっている。大会という非日常が少し全員のテンションを上げているのも要因の一つだ。
陸上の大会は少し特殊な仕組みとなっていて、種目ごとに設定された標準記録を達成しない限り、全国大会に出場することが出来ない。
他の競技が強さを相対的に決めているのと違い、陸上の強さはあくまで絶対的に決まる。そこが魅力だと感じる人も多い。
そして自分の学校からは、全国大会に出場するほどの選手は存在しなかった。
しかし、全国クラスでない選手だからと言って三年間努力してきている。
一人一人が全力でこの大会に挑んでいた。三年生はこの大会が終われば受験レースへと駆り出される。そんな先輩たちが大会に対して抱える思いはまだ自分には感じ取れなかった。
結果を言うと、自分は県大会に出場することが叶わなく、昨日衝突した先輩は初戦で敗退していった。
先輩の走りは明らかに精彩を欠いているとしか思えなかった。スタートする前から不安でいっぱいの顔をしていて、敗退した時もやっぱりという表情だった。
大会が終わり、全員が引き上げる準備をしている時に水分を買うために会場の端の自動販売機へ向かっていると、人目に付かない影になっているところから人の気配がした。
少し近づいていくとそこにいる人が誰かが分かった。先輩だった。一人パイプ椅子に座りこんで頭を抱えていた。よく見ると涙を流していることが分かった。
その光景を見た時に自分の胸を大きなハンマーで殴られたような感覚がした。どうしてあの人は泣いているのか、俺を責めればいいじゃないか。
今日調子が悪かったのは明らかに俺が手を抜いたせいだ、そう思った。帰りに買ったスポーツ飲料はやけに甘ったるくて、くどかった。
それから特に何事もなく新体制へと移行していった。
新しい部長が意気込みを語って全員が小さな拍手を送る。自分が部長に選ばれなくてよかったと思った。
そんな立場になってしまったら、俺は何を言えばいいのだろうか。
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