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八章
週末までは気が遠くなるほど遠かった。
しかし部活動に対しては自分で考えていたよりも打ち込むようになった。
先輩たちが受験に切り替えて、部活からいなくなったために、部全体を引っ張る存在が必要とされていた。
そして俺は記録が部の中でも上の方に位置していたから自然と注目されることが多くなっていったのだ。
いつしか誰かから尊敬されているということが俺の原動力となっていた。ここでいくら走っても意味なんてないのにと、そう思うことがたまにあった。
部の中でいいことばかりが起きていたわけではない。サボっていた先輩がいなくなったかと思えば、比較的運動が苦手だった層がたむろして座り込むことが多くなっていった。
誰も頼んでいないのにこのような層は必ず生まれるのだなと不思議な感覚に陥った。やはり彼らを見ていると心の中に安心感と優越感があった。
去年彼らの中の一人から軽い相談のようなものを受けたことがあった。
そのころから両者の間の運動能力には差が生まれていた。
こなしている練習量も特に差があったわけではない。しかし、その差は目に見えて存在した。
「どうしたらお前みたいに早く走れるのか教えて欲しい」
この問いに俺は答えることが出来なかった。要領を得ない答えしか返せなかったことは覚えている。
彼は今部の練習に参加せずにたむろしているわけだが、彼と俺はたまたまこういう役を背負っているだけなのかもしれないと思う時がある。
彼が俺のポジションに入り部を引っ張っていったかもしれないし、俺が隅で努力している人を笑っていたのかもしれない。
努力する意味なんてないのだと、そしてその考え方は俺の中にも存在する。
そのことを考えると自分たちは何か大きな力で操られているような感じがした。
逆らえそうもない、自分が倒れないだけで精一杯な大きさだ。俺は見えない糸で良いように操られ続けるだけなのか。人形遣いの人形は飼い主に一矢報いることが出来るのだろうか。
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