六章

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 そうだといいですね。そう言って彼女はこちらにすっと手を伸ばしてきた。    最初は意味が分からなかったが、それが手を繋ぐという意味を持つということに気が付くのにさほど時間はかからなかった。  こちらもぎこちなく手を延ばす。お互いに顔は見ないで、指と指を絡ませて隙間が生まれないように、必死にしがみつく。二人とも不安でいっぱいだった。その表れだと思う。    それが彼女と初めて手を繋いだ瞬間だった。  別れ道に着いても、すぐには帰らなかった。特に意味もないことをだらだらと喋っていた。    俺はもともと無駄に時間を過ごすことはあまり好きではなかったけれど、相手が気になっている子だと不思議と苦痛はなかった。    後から思えば、この時の彼女がやけに積極的であったとか、不思議な点はいくつも見いだせるのにと。今はそう思う。    その時の俺は、初めて感じる異性の手のひらと指の感触で頭がいっぱいだった。
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