1/8
前へ
/8ページ
次へ

 

カフェの夢をみた。 駅から続く道を歩いていくと、右側に円筒形のビルがある。二階はガラス張りで、洋服屋のようだ。 合成樹脂のカラフルなテーブルと椅子が並ぶ一階のカフェは、夜になる手前の半端な時間のせいか、空いていた。 僕は入口近くの席に座った。 店内には西陽がかすかに差し込み、手元は少し暗い。 遅れてきたキシが向かい側に座って、何だか嬉しそうな様子で、 「これ、プレゼント」 と、テーブルに小さな箱を置いた。 濃い青の包装紙に、白いリボンがかかっていた。 目が覚めてからしばらくの間、どの駅だったかを思い出そうとしていた。キシとあのカフェに行ったことはあるが、プレゼントを貰ったことはない、と。 そのうち、頭がはっきりしてきた。 キシとカフェに行ったことはない。あの店は、現実には存在しない。駅もない。もちろんプレゼントもなく、全部が夢の中だけにあったのだ。 僕の前に箱を置いたキシの手が、心に刻まれていた。 夢をみた翌日、聞いた? 岸君のこと、という出だしで、女性二人からそれぞれ、キシが辞める理由を聞かされた。     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加