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前の日に、デスクが近い同期から聞いた話と合わせて、キシはオーストラリアにいる父親の会社を手伝うために退職すること、退職日は十二月末だが、有給休暇を取るため、十一月中旬から出社しないことがわかった。
家族が海外にいるとか、高校の時と大学に入る前に一年ずつ向こうにいたので、キシの年齢が上だとかは、同期の全員が知っていた。
キシは、僕と二人の時に自分の話をしなかった。
一度だけ、初めて男としたのは?と聞いた時、
「十五か、六か」
と言っていた。
「彼女いたのは?」
「まあ、そのあとかな」
「初恋は?」
僕が枕から顔を上げて聞くと、キシは、
「初恋とか言うなよ、あほらしい」
と呆れた顔をして、
「人に聞くなら、まず自分のことから話しなさい」
と言った。
僕が笑うと、キシはちょっと体を引いて僕の顔を眺め、
「誤魔化したな」
と呟いた。
「これまで、何人たぶらかしてきたか、言ってみなさい」
「言うかよ、ばか」
キシは、僕自身についてはほとんど何も質問したことがないが、僕がどんな夢をみたのか、しょっちゅう聞いてきた。
聞いた相手を嫌な気持ちにさせる内容なので、僕は質問されても話さなかった。
一度も答えないことに、キシは途中で気づいていたと思うが、それでも、泊まった朝は必ずと言っていいほど、昨日どんな夢みてたの、と尋ねた。
キシの退職について三人から聞いた週の土曜日、男とカフェにいた。
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