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オレは岩の上でじっと身を潜めながら、ゴリラ達がえぐっていった道を眺めていた。 静けさを取り戻した岩山には湿った空気が流れていた。 ズボンのポケットが振動した。 携帯電話だけはバイクに積んだ荷物とは別に持っていた。 「もしもし」 電話の相手は仕事仲間だ。 「ああ、だいたい終わったみたいだよ」 この道もしばらくすればあの窪地のように苔や草が芽吹くだろう。 「事前にあいつらについて教えといてくれよ」 オレは状況報告をしながら文句を言った。 彼は笑いながらさも当然のように言い返した。 そんなものは小学生の頃に散々習っているはずだ、理科でも社会でもな、と。 「でも、あれはないわ」 彼はまた笑い、雨季の走りはどこもそんなもんだと言う。 そうだろうか。 学のないオレにはよくわかりませんな。 彼はまた頼むよと言った。 * オレは谷の斜面を降りている。 ゴリラが巻き込んだ土砂のおかげで少しながらかになっている。 バイクが谷底に落ちた旨を伝えたら拾ってこいと言い捨てられた。 あいつ泣いてたな。 あのバイク、あいつのお気に入りだったもんな。 まあいいや。めんどくさいし。 彼の性格上、本当にバイクが見つかるまで迎えには来ないだろう。 ふもとに町があったはずだ。 足も食料も地図も失ったが、町までなら、まあなんとかなるだろう。 彼のおかげでフィールドワークには慣れている。 ふもとへの道なら真新しいのがちょうどできたところだし、水も、アグレッシブなのがそこらにある。 * 通話の中で、また頼むよと彼は言った。 オレは曖昧に返しながら、脳裏にさきほどの光景を思い浮かべていた。 ゴリラに乗った女は去り際にまた右頬を吊り上げながらオレを見て言った。 「またな」
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