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べちゃっ あー。破片がオレの顔にー。 前方に落ちた糞の一部が顔面に飛んできた。 「あっ」 顔に貼りついた破片に気を取られた瞬間、ハンドルがぐらりと歪んだ。 砂にタイヤを取られた。 前輪が激しく蛇行し、後輪が左に滑りだした。 「ぶほぁ」 とっさにバイクから飛び降り、背中から砂地に落ちた。 「げほ、ごほ」 肺から空気が押し出された。 やばい、目に砂が入った。開けられない。 上がりっぱなしの心拍がさらに激しく打たれる。 やつらの足音が地面を伝って響いてくる。 来る。 息がうまく吸えていない。 やばい、頭ぐるぐるまわっている。 来る。 「ば、バイク…」 近い。 やつらが近い。 振動が、地鳴りが、近い。 うるさい。 思考が、遠い。 心臓の鼓動とやつらの足音とがまじりあって。 それにしても、走りながらウンコしてるのか。すごいなあいつら。 眼前に一匹たどり着いた。 もういいか。逃げるの疲れた。 右腕をつかまれたオレはそのまま宙に放り投げられた。 右肩が抜けた。 痛みが涙腺を緩め、オレは霞んだ視界を手に入れた。 回り歪む視界が捉えたのは右頬を吊り上げながらこちらを見上げる青い女と間近に迫った青いゴリラの群れ、スリップしたバイクと前方に広がる大きな亀裂。 あれで笑っているつもりだろうか。 「ぶべっ」 オレの身体はゴリラ達よりもさらに大きな岩の上に投げ出された。 あ、右肩がはまった。 不可思議な行動だった。 ゴリラ達は谷底へ飛び込んでいった。 微塵もためらうことはなく、大小の岩々を巻き込んで流れ落ちていく。 あ、バイク落ちた。 帰りの足がなくなったところで、女はいつの間にかオレの横にいた。 女はやはり何も話さなかった。 ただ眼下の青い流れに目を配るだけだ。 最後のゴリラが谷の縁に近づいたと同時に女はそのゴリラの背に飛び移った。 「ぉ、おいっ」 女はゴリラとともに落ちていった。
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