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「──こうやって近くで見たら透明なのに」
まだふてくされているフリをして、リリーは雨の中に手を伸ばす。当たり前に手と服の袖が濡れる。
「リリーにお勉強みたいな説明じゃ納得しないかあ。うーん、そうだなあ……」
いつも本を読みながら考え込んでいる時みたいに、テンは思考の海の中へ潜り込んでしまった。
リリーより色んな事を知っていて、本をめくってばかりいるテンの頭の海はどんな色をしているのだろう。
一つの色しか残さない海と違って、そこにはいっぱい色が収まっているに違いない。
露店で買った古本の色あせた白。
得意の草笛を作る若葉の緑。
照れた時に頬を染める赤。
手をつないだ時に感じる温かさはきっとオレンジ。
もちろん海の青もあるだろう。
下手な癖にリリーと交代で料理を作りたがるから、鮮やかな色がお鍋の具みたいに収まった渦の底にはコゲの黒もへばりついているはずだ。
隣の少女を納得させる答えと、少年の頭の中の海の色。
どちらも結論が出ないまま、雨脚が遠のいていく。
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