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だから、さっきみたいな理屈を付けて、自分は笑えないんじゃない、笑わないんだって一生懸命言い聞かせて。本当は哲学でも何でもないの。ただの言い訳。
学校の皆も、とてもいい人達。良くしてくれるし、一生懸命笑わせようとしてくれる。でも、私はそれに応えられない。両親と同じように悲しませちゃう。応えなきゃいけないのに。上手く笑えないの。
私、どうしたらいいか、分からない……」
桑折さんの絞り出すような心中の告白を、天道君は黙って聞いていた。廊下は何一つ音を跳ね返さず、異様なまでに静かだった。
桑折さんにはかなり長い時間が流れた気がした。あぁ、こんなどうしようもない話、すべきではなかったのではないか。後悔が心を擡もたげ始めていた。
真剣な表情で何かを考えていた天道君は、パッと花が咲いたような笑顔になって、あっけらかんと言葉を発した。
「じゃあ、今は笑わなくてもいいんじゃない?」
目が丸くなる。それは桑折さんにとって、意外過ぎる回答だった。
誰も彼もが、桑折さんに笑う事を押しつけていた。それは皆の善意からくるもので、拒むにも気を遣って出来なかったのだ。そして応えられない自分がイヤで仕方なかった。
「今は笑うべき時じゃないんだよ。さっき言ってたじゃない。きっとその内、最高に笑える時が来るんだから、それまでたっぷりエネルギーを溜めておきなよ?」
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