笑わない女の子と笑いすぎる男の子の、笑顔にまつわる物語

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 驚く程の素っ気ない態度。最初こそこの素っ気なさに皆驚いたが、ちゃんと観察するにつけ、愛想がない、というのではなく、ただ笑わないだけ、と言う事に行き着いて、皆普通に接するようになった。実際、多少の無茶なお願いであっても桑折さんは応えてくれるし、とても良くしてくれる。 「ありがと~!」 「ん」  返事も素っ気ない。けど、誰も気にしない。何、ちょっと笑わないだけなのだ。  とはいえ、笑わない子があれば、笑わせてみたくなるのが人情というもので、いつの頃からか、自然と毎週水曜日のお昼休みに「桑折さんを笑わせる大会」が自主的に開催されるようになっていた。 「では! 今週も張り切って行ってみましょう! 桑折さんを笑わせる大会ぃ! レディー・ゴー!!」  司会の鹿田君の声に、ワァっと教室が盛り上がる。この時になると、他のクラスからも見物客が溢れ、廊下まで人混みが出来上がる。  桑折さんは窓際の自分の席から参加者の挑戦を真剣な表情で見る。両手両足を揃え、一分の隙もない模範的な座り方。マジメな気性から来ているそれは、凡そこの大会の趣旨にはそぐわない態度であった。 「一番! 隣のクラスの近藤君!」 「はい! やるぜー!」  呼ばれた子、近藤君は人混みから颯爽と登場し、桑折さんの前に立つ。 「一番! 近藤! 理科の中島のものまねします! 『え~、これがいわゆるぅ、質量保存の法則でぇありますぅ』」  どっと場内が湧く。なかなかの仕上がり、誰が聞いてもそっくりであった。     
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