季節外れの夏の花

6/7
前へ
/7ページ
次へ
「寒いね、外」 「いいや、夏祭りだぜ?暑いに決まってんだろ」 2人してからからと音を立てて笑う、くだらない話をして、子供みたいに笑って、そして気づくと、時刻は昼12時を回っていた 「…はぁ、楽しかった、疲れてきちゃった」 「ねぇ、花火みたいなぁ」 「…花火かぁ、まだ昼だし、さすがに難しいよなぁ…」 「そうだよね、仕方ないか!はぁ、それにしても楽しかった!」 その笑顔は心から幸せな人の顔だった。 「ねぇ、最後に聞いていいかな」 時間は、侵食は止まらない。慈悲もないまま、顎の手前まで来た樹木化は勢いよく進行していく。もうまもなく喋ることも出来なくなる。 「…何?」 「今日の私、綺麗?今日の私、素敵?今日の私…好き?」 きっと心の底から不安だったことなんだろう、ぽろぽろと、彼女の目からは赤い涙が溢れ出す。 「綺麗だよ、素敵だ、愛してる」 「あぁ…よかっ……た………私…も………して……」 そして口は動かなくなる、言葉は聞き取れなくなる。 それでも必死に喋ろうとしているのだろう。 目が動く、涙はどんどんと溢れていく。けれど侵食は止まらず、固まっていく そして彼女が生まれた12時37分36秒。樹木化は頭に達した 「…今までありがとう、これからもずっと君を守るから…君だけを愛していくからね…」 彼女の心から苦しむようなその表情は、今の俺には見ていられるようなモノではなかった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加