0人が本棚に入れています
本棚に追加
「寒いね、外」
「いいや、夏祭りだぜ?暑いに決まってんだろ」
2人してからからと音を立てて笑う、くだらない話をして、子供みたいに笑って、そして気づくと、時刻は昼12時を回っていた
「…はぁ、楽しかった、疲れてきちゃった」
「ねぇ、花火みたいなぁ」
「…花火かぁ、まだ昼だし、さすがに難しいよなぁ…」
「そうだよね、仕方ないか!はぁ、それにしても楽しかった!」
その笑顔は心から幸せな人の顔だった。
「ねぇ、最後に聞いていいかな」
時間は、侵食は止まらない。慈悲もないまま、顎の手前まで来た樹木化は勢いよく進行していく。もうまもなく喋ることも出来なくなる。
「…何?」
「今日の私、綺麗?今日の私、素敵?今日の私…好き?」
きっと心の底から不安だったことなんだろう、ぽろぽろと、彼女の目からは赤い涙が溢れ出す。
「綺麗だよ、素敵だ、愛してる」
「あぁ…よかっ……た………私…も………して……」
そして口は動かなくなる、言葉は聞き取れなくなる。
それでも必死に喋ろうとしているのだろう。
目が動く、涙はどんどんと溢れていく。けれど侵食は止まらず、固まっていく
そして彼女が生まれた12時37分36秒。樹木化は頭に達した
「…今までありがとう、これからもずっと君を守るから…君だけを愛していくからね…」
彼女の心から苦しむようなその表情は、今の俺には見ていられるようなモノではなかった。
最初のコメントを投稿しよう!