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北海道の秋は早い。 十月にもなれば、まわりの樹々はいそいそと色づきはじめて華やかな饗宴の季節へと向かい始める。 もちろんそれさえも、そのあとにやって来る厳しい雪の季節のまえぶれに過ぎないのだが。 そんな十月のある日、金貸し屋の篠田太は列車にひかれて死んだ。 もう11月になろうかという、小雨の降る肌寒い夜だった。 人より頭一つ半も大きな、岩のような男だったが、列車が相手ではかなうはずもない。 網走と釧路を結ぶ釧網線の小さくてさびしい踏み切りのなかで、彼の体は古びたパンチングボールのように、あっけなくはじきとばされた。 太をひいた列車はそこから百メートル以上も進んで止まった。太が踏み切りのなかに入ってきたのがあまりにも突然で、ブレーキをかける間もなかったからである。 二両編成の小さな列車だったが、それでもその鉄の箱は人ひとりひき殺すのには充分な凶器になりえた。 しばらくして、列車から運転手が降りてきて、死体に駆け寄ると、"うっ"と口に手を当てて、死体に背を向けて携帯電話を取り出した。おそらく、警察に通報するのだろう。 じきにここは、救急隊や警察官でちょっとした人だかりが出来るはずだ。そうすれば、沼底のようなこの街の暗闇も静寂も、ほんの少しだけ破られることになる。 雨は静かに降り続いていた。 踏み切りの脇の雑草にも、 ひかれた死体の上にも、 平等に。
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