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樹里亜の母親
夫と離婚したあとは、たしか近所のスナックでアルバイトをしているはずである。化粧をきちんとすれば、きれいになるだろうな、となみは思った。比較的大きな瞳が写真の樹里亜を思い起こさせた。
「樹里亜のことで何かわかったんですか?」
母親の顔がいぶかしげになった。
「いえ、まだなにも。捜査を開始したばかりでして。」
「そうですか。」
失望したかのように、彼女はため息をついた。
目線の定まらない顔からは神経質な気性が見て取れた。彼女が樹里亜に虐待を働いていたことは"刑事の勘”でなんとなく察することができた。
それでも、娘の失踪のためか、心労が重なっているようだ。
「娘さんが失踪されて気落ちされているところ申し訳ありませんが、いくつかお聞きしてもよろしいですか?」
母親の感情をそこねないように、なみが尋ねた。母親は黙ってうなずいた。
「篠田太という男をご存知ですか?」
と、なみは切り出した。
「篠田太・・・。あの借金取りの?」
「そうです。彼のことはご存知ですか?」
「もちろんです。この辺りの人はみんな知ってるんじゃないんですかね。誰もが蛇のように嫌っていますよ。」
「やはりそうですか。お母さん、驚かれるかもしれませんが、実は一週間ほど前に、篠田と樹里亜ちゃんが一緒に逃亡しているのを警官が目撃しているんです。」
母親を刺激しないように、なみはゆっくりと声を落として話した。
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