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太の過去
「そんなことがあったんですか。」
「それからじゃ、太がぐれてしまったのは。中学を卒業するまでは養護施設を転々としていたんじゃが、施設を出てこの街に戻って来ると、ゆすりにたかり、なんでもござれになって、あっという間にこの辺じゃ知らん者のおらんような悪党になってしまったんじゃ。」
はるの話を聞いて、言葉が出なくなった二人だったが、やっとのことでなみが口を開いた。
「篠田には、そんな過去があったんですね。」
「そして今度は自分が借金取りじゃ。」
はるの瞳には深い悲しみの色が宿っていた。
「皮肉な話だぜ・・・。」
阿川も、もはや絶句している。
はるが口を開いた。
「世間はやつを根っからの悪人と思っとるようだがね、太は自分をそんな目に合わせた世間に復讐しとるだけなんじゃよ。」
「復讐、ですか?」
「そうじゃ。なにもかも奪われて、心の中にぽっかりあいた穴を埋めようと必死なんじゃよ。」
「心の穴・・・。」
はるに問うでもなく、なみはつぶやいた。
はるは話を続けた。
「太はそんなふうになった後でも、わたしの家に来るときには子供のときのままじゃよ。おばちゃん、また来たよと言って、寝転んで話をするんじゃ。」
「ちょ、ちょっと待ってください、はるさん。」
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