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「ヒロシとは、高校の頃からの付き合いです。今は確かにうまくいってませんが、なんとか更正させたいと思っています。」
自分の意志を原田に伝えようとしたが、なみの声には力がなかった。それもそうだろう。昨日のことがあったばかりなのだから。
「やつは無職だそうじゃないか。」
原田がなみに問いただした。
「今はそうですが、以前は自動車整備工場に勤めていましたし、また就職すれば、ちゃんと生活するようになると思います。」
なみは原田に訴えた。
「やつは今どうしてるんだ?」
「昨日出て行ったきり、帰って来てないんです。」
そのことを聞かれてはどうしようもない。
「そうか。」
「でも、きっと帰って来ます。いつもそうでした。」
なみは原田にすがりついた。
「しかしな倉場君、警察沙汰はいかんよ。」
なみの思いを断ち切るように原田は言いきった。
「・・・そうですね。」
同意するしかないなみは、うつむいた。
「君はまだやつのことが好きなのかね?」
なみの顔を覗きこむようにして原田が聞いた。
「え、そ、それは・・・。」
あらためて言われるとはっきりとはこたえられない。
「もし君の心の中に迷いがあるのなら、とりあえず、やつと少し距離を置いてみるべきじゃないか?」
「距離・・・、ですか。」
原田の意図することがはかりかねて、曖昧にしかこたえられない。
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