あんな男と?

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あんな男と?

「えっ、そんな。あんな男と?刑事さん、何かの間違いじゃないんですか。」 母親の声には驚きの色がにじんでいた。無理もないだろう。悪名高いあの男と自分の娘が一緒にいたと聞かされたのだから。 「お母さん、残念ながらたしかな情報なんです。少し前に篠田太と樹里亜ちゃんがいっしょにいるところを、知床で目撃されているんです。。」 このときばかりはなみも母親に同情せざるを得ない。鬼と呼ばれている篠田太に娘が誘拐されたのならば、母親としては胸も張り裂けんばかりだろう。 「でも篠田は、おとといの夜に死んだはずじゃ・・・。」   母親の声の中には疑念の色が生じた。 「はい。轢死体で発見されています。」 「じゃ、じゃあ、樹里亜は今どこにいるんですか?」 「それはなんとも・・・。我々でも全力で探しているところなんです。」 「刑事さん、樹里亜を必ず見つけてください!お願いします。」 母親にしがみつかれながらも、なみは彼女の中にどことなく芝居がかった白々しさを感じていた。 (やはり、虐待をしていた後ろめたさがあるのだろうか。) 心の中でなみはそう思った。 「我々にまかせてください。・・・ところで、お母さん。」 話の本題に入らなければならない。 「はい。なんでしょうか。」 「娘さんがいなくなったときのことについて、おたずねしたいのですが。」 なみがそう言うと、とたんに母親の目が泳ぎ始めた。 「そ、そのことなら、もう警察にはお話ししましたが。」 母親はますます落ち着きを失っていく。 彼女の様子をひそかに観察しながら、なみは母親に頼み込んだ。 「篠田の死亡事件がありましたので、彼と樹里亜ちゃんにどんな接点があるか、改めてお聞きしたいのです。ご協力お願いします。」 「そうですか。わかりました。」 しぶしぶと母親が言った。 なみが切り出した。 「娘さんがいなくなったとき、お母さんはどこにいらしたんですか?」 「え、あ、それは・・・。ちょっと目を離した隙にいなくなってしまって。」 やはり、母親の態度はおぼつかない。 「それは、勝手に外出、たとえば遊びに行くとかしたということでしょうか。」 なみの質問はあくまでも穏やかである。ここで彼女を追い詰めて全てを白状させても仕方がないことは彼女にもわかっている。 「さ、さあ、本当に気がついたらいなくなっていたんです。」 母親は、もうまったくなみと視線を合わせなくなってしまった。 (樹里亜ちゃんの話題になってから、急に態度がおかしくなってきたな。)
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