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「わかってる…わかってても……向こうが晴馬を思い出すことがまだあるから、私はまだ彼女の影を感じる…」
「……うそ……」
「秋から冬はその女の人…。晴馬のこと思い出してばっかりいるんだ。その人の心に晴馬はまだ住んでるんだよ」
「……そんなこと、俺にはどうしようもないだろ?」
「月日が忘れさせていくまでは、私は耐えるしかないの。耐えてるんだよ…」
夏鈴がめそめそと泣き言を言うなんて、俺はオロオロしながらハンカチで涙を拭いてやる。
「わかった、わかったよ! 夏鈴が耐えてくれてるって知ったから、俺は一秒だってお前の事以外は考えないって約束する。俺の頭の隅々まで夏鈴しかいないから…。それじゃダメか?」
夏鈴は俺の目を覗き込んできた。そして、こくんと頷いて抱き着いてきた。
「一人で我慢してたんだな。ごめんな…俺がバカだったせいで……」
「晴馬はバカじゃないよ。晴馬はただ一生懸命だったんだもん…。生きていくのに疲れてしまうことは責められない。私が傍にいなかったんだから、しょうがないってわかってる…。わかってても、どうしようもなく悲しくなることがあるの。今みたいに……」
「気休めかもしれないけど、俺の心の中にはずっとお前だけしかいない。小さかったお前を大人の女のようには愛せないから、忘れようとしてたけど…」
「じゃあ、大人になった私をいっぱい抱きしめ続けてね。ずっとだよ!」
「ああ! わかってるよ! 夏鈴。ほんとうに俺のこと好きなんだな……。嬉しくて泣きそう…」
今度は夏鈴がハンカチで俺の涙を拭いてくれる。
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