脱色の思い出

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 「まあ、簡単に言ってしまいますと、お部屋のお片付けから、大事な方への贈り物、遺言書や遺産の通達、他にも、死後起こり得る全ての事柄に対応させていただいております」  「遺言書なんかは、弁護士に渡しても、自分で持っていてもいいんですよね?」  「ええ。ですが、弁護士よりもお安く済みますし、御自分で持たれているよりは、安全安心かと」  「なるほど。まあ確かに、自分が死んだあと、部屋の片づけなんて大変ですもんね。息子たちも、きっと嫌がるでしょうし」  「息子さんがいらっしゃるんですか?」  小さく肩を揺らしながら、老人は笑う。  「ええ、3人とも男で。しかし、みーんな遠くに住んでいて、年に1度も会いになんて来やしません。孫と会ったのだって、もう、5年以上も前のことです」  「それはお寂しいでしょう」  「でもまあ、幸せに暮らしているのであれば、それでいいんです。小さい頃は親の後ろを着いて歩いていても、大きくなれば、親より前を歩いて行ってしまう」  「親子の距離というのは、難しいものがありますね」  「氏海音さんは、ご両親とは仲が良いんですか?」  老人の問いかけに、氏海音は笑みを崩さぬまま答える。  「父も母も、もういません」  「あ、これは、すみません」  「いえ、構いません」  申し訳なさそうに謝るが、氏海音は首を横に振りながら笑う。  そして食べかけだった大福を全部口に入れると、まだ温かいお茶を飲む。  老人がその紙をじーっと眺めていると、氏海音は炬燵から出て立ち上がり、そろそろ帰ると言いだした。  「ちょっと、待ってください」  老人は引き留めると、再び炬燵へ入るように促す。  また炬燵に逆戻りした氏海音に、老人はこう言った。  「是非、契約させてください。よろしくお願いします」  頭を下げながら言うと、氏海音の優しい声が降ってくる。  「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
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