脱色の思い出

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 一緒に折ったのだろう折り紙は、原型をとどめているものもあれば、すでにくしゃくしゃになっていて、何を作ったのか分からないものまであった。  息子たちの卒業証書や、学生制服。  それに、小さい頃に遊んでいた玩具も、所狭しと入れてあった。  きっとこれを見たら、息子たちは言うのだろう。  なんでこんなものをまだとっておいているのか、と。  しかし、それは老人にとってはかけがえのない思い出であって、今となっては家族の繋がりを証明する、唯一のものだったのかもしれない。  氏海音は、その段ボールだけ、別にする。  カーテンなども取っ払って、台所も風呂場も床も網戸も、プロ並みに綺麗に掃除をすると、すでに外は暗くなっていた。  来たときとは全く別の部屋になってしまったその部屋を後にすると、氏海音は、そっとそこから消えていった。  その翌日、自分達の父親が亡くなったと報された息子たちは、慌てて古いアパートまで来ていた。  嫁たちも連れてきて、子供たちに至ってはつまらなさそうにしているが、それを気にしている暇もなく、駐車場に車を停めると、急いで部屋まで向かう。  部屋を開けてもらうと、目を丸くする。  なぜなら、昨日亡くなったばかりだというのに、もう部屋が綺麗さっぱり、物がなくなっているからだ。  どういうことだと互いの顔を見合わせていると、部屋の中に1つだけ、段ボールがぽつん、と置いてあった。  そして、その段ボールの上には、一枚の折られた紙が乗せられていた。  開いてみると、こんなことが書かれていた。  【この度は、亡くなられた坂下徳様のご希望により、誠に勝手ながら、部屋の清掃をさせていただきました。自分の子供たちに迷惑をかけたくないという強い願いを、何よりも尊重させていただくことにいたしました。しかしながら、私にも処分出来ないものがございましたので、こちらはどうか、坂下様のご氏族様方に、判断を委ねたいと存じます】
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