ラブレター

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 唯一黒で書かれていたのは岡田くんの名前だった。私は岡田くんからのメッセージを探したけれど、寄せ書きには岡田くんの名前があるだけで、メッセージのようなものは何も書かれていなかった。寄せ書きのページはぎっしりと埋まっていたので、もしかしたら別のページに書いてあるのかもしれないと思い、他のページもめくってみたけれど、黒のペンで書かれた文字はどこにも見当たらなかった。岡田くんは私に言うことなんか何もなかったのかもしれない、そう思った直後、私はあることに気が付いて、急いで卒業アルバムに挟んでいたままのラブレターを取り出した。  黒のボールペンで書かれた岡田くんの名前は、あの日私が貰ったラブレターの筆跡とよく似ていた。一瞬のうちに、私の頭の中を様々な理由が駆け巡った。差出人が書かれていなかったのは名前を書き忘れただけだっだんじゃ、とか西園くんが私のこと好きなのを知っていたからなのかな、とか。この現状は岡田くんの意図したものだったのだろうか。もっと早くわかっていれば私達には別の未来があったのかもしれない、と、そう思う自分もいる。だけど、それすら私の都合のよい妄想かもしれないのだ。岡田くんに聞いてみないことには本当のところはわからないし、わかったところで、今更どうにかなる類の話ではないのだ。きっと。物事にはタイミングというものがある。私が進学と同時に家を出たように、岡田くんも卒業と同時に海外に引っ越すことになっていた。  私はがらんとした車内で一人静かに泣いた。私の生まれ育った街は、もう既に遥か遠くになっていた。
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