ラブレター

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 名無しさんは一体どういうつもりで私にこの手紙を送ったのだろう。私は授業そっちのけで机で頬杖をつきながら差出人に思いを馳せる。好きだと伝えたところで、誰だかわからないのでは意味がないのではないだろうか。仮に自分のことを想ってほしいと考えたゆえの行動であるとすれば、否が応でも差出人のことを考えてしまう私の状況は、まさに名無しさんの思惑通りであると言えよう。  教室の一番後ろである私の座席からは教室内の様子がよく見渡せる。私に手紙を送ったのは、一番前の座席で真剣にノートをとっている石田くん?それとも、先生に隠れて漫画を読んでいる山岡くん?クラスの男子とはそんなに話す方でもないので、とりわけ仲の良い男子もいない私には誰が名無しさんなのか見当もつかない。もしかすると、名無しさんはこのクラスの男子ではなく別のクラスの男子なのかもしれない。私がその考えに至った時、右斜め前の席の岡田くんと目が合った。岡田くんは私の顔を見るなりぎょっとしたような表情をしたかと思うと、すぐに目を背けてしまった。ひょっとして、名無しさんの正体は岡田くんなのではないだろうか。  授業中に岡田くんと目が合って以来、私は人知れず岡田くんのことを目で追うようになった。岡田くんの下の名前は拓哉で、部活動はサッカー部。性格は明るくて、友達は多い方。成績は可もなく不可もなく。私が知り得る岡田くんの情報はこのくらいだった。岡田くんが私に話しかけてくることはなかったし、私から岡田くんに話しかけることもなかった。名無しさんの正体が気になってはいたものの、それ以後なんのアプローチもないのに、「あなた、私のこと好きなの?」なんて、直接本人に聞いてみるわけにもいかず、私はいつも通りの日々を送っていた。だけど、頭の片隅には常に名無しさんの存在があった。
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