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あっという間に文化祭の前日を迎えた私達は、最後の仕上げをするために、いつもよりも長いこと学校に残っていた。私は放課後に塾も部活もなかったので、最後まで教室に残って作業をしていたけれど、この時間まで残る生徒はまばらだった。さてそろそろ帰ろうか、と思ったその時、私は西園くんに呼び止められた。
「工藤、方向一緒だったよな?駅まで一緒に帰らないか?」
西園くんはクラスメイトで、文化祭準備期間を通して少し話すようになった男子だ。成績優秀で文武両道。背が高くて格好良いし、おまけに誰にでも優しいからファンの女子も多い。今が日中であったなら、間違いなく私はその誘いを断っていたと思う。女子の嫉妬は恐ろしいから。だけど、もう外は暗くて、怖そうな女子はおおよそ帰ってしまったようだから、私は西園くんと一緒に駅までの道のりを歩いた。街灯に照らされて、二つの影が伸びていた。
「工藤さ、好きなやつとかいるの?」
そう言われて、私の頭の中に真っ先に浮かんだのは、他の誰でもない岡田くんだった。さっきまでたわいのない会話をしていたので、私が西園くんの意図を理解するまでにはいくらか時間がかかった。
「随分と単刀直入に聞くんだね?」
私は平静を装いながら、そう答えた。てっきり、あの時の廊下の一件を持ち出されるとばかり思っていたのだ。
「俺、回りくどいこと嫌いなんだよね。いるの?いないの?」
そう言いながら西園くんは笑っていたけど、目の奥はちっとも笑っていなかった。この時になってようやく私は、今から自分の身に起こるであろう出来事を推察することができた。そして、それに対して自分の顔がこわばるのを感じた。
「俺は工藤のこと、好きだよ。前から気になってたけど、最近話すようになってやっぱり好きだなって思った」
歩みを止めた西園くんが私のことをじっと見ているのがわかったけど、今の私はきっと真っ赤な顔をしているんだろうなと思うと、西園くんの顔を見ることができなかった。なんて返せばいいのかわからないまま、私は無言で立ち尽くしていた。
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