ラブレター

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 文化祭の当日は朝からとても慌ただしかった。昨日の今日で西園くんと会うのは気恥ずかしいな、と思っていた私をよそに、時間は目まぐるしく過ぎていった。西園くんはお化け屋敷内でお客さんを驚かせる係だったので、外で受付をしている私とは喋るようなタイミングがなかったのだ。私と岡田くんはお客さんを中へ誘導したり、教室の近くで呼び込みをしたりして、協力しながら自分たちの担当を全うしていた。  常に絶えなかった客足が急に途絶えだした。廊下を行き来する人の数も随分と少なくなったように思う。時計を確認すると時刻は十二時を過ぎたあたりだった。お昼時になったので皆食事に行ったのだろう。窓からグラウンドを見下ろすと、飲食屋台のテント前には長蛇の列ができていた。私達が午後の受付当番と交代する時間も、もうそろそろだった。  「腹減ったろ?あとは俺がやっておくから、先に休憩行っていいぞ」  隣に座っていた岡田くんは、机の上のボールペンをくるくると指で回しながらそう言った。  「大丈夫だよ。もうすぐ結唯ちゃんたち来ると思うし」  私がそう言うと、岡田くんはそうか、とだけ答えた。こうして何もせずに岡田くんと二人並んで座っているのは、なんだか緊張した。廊下に響く生徒達の声も不思議と今は遠くに聞こえた。  「あのさ」  何か話そうと思った私が口を開くよりも先に、言葉を発したのは岡田くんだった。私は岡田くんの方に顔を向けた。
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