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卒業式が終わってからすぐ、私は引っ越すことになっていた。初めての一人暮らし、むこうでの新しい生活に慣れるには早い方がいいだろうというのが両親の意見だった。お母さんはやたらと心配して私にあれこれ持たせようとしたけれど、そんなに沢山鞄に入らないからと言って断った。大抵の荷物はまとめて引っ越し先に送るので、家を出る当日の荷物はリュックとトートバッグ一つだけだった。
お母さんから「それこそ重たいんだから送ればいいじゃない」と言われたものがある。私は新幹線の座席に座りながら、トートバッグの中から卒業アルバムを取り出した。卒業アルバムを見るのは故郷を離れ行く列車の中で、と心に決めていたから。そのために私はクラスのみんなから書いてもらった卒業アルバムのメッセージを一切読まず、楽しみに取っておいたのだ。
離れてもずっと友達!大好きだよ!
これは続きを読まなくてもわかる。結唯ちゃんだろうな、なんて思いながら、私は一つ一つ、そこに書かれたメッセージを読んでいった。カラフルなペンで書きこまれた賑やかなメッセージたち。その中に一つだけ、黒のペンで書かれた文字があった。
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