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トロイは眠い目をこすって懐中時計の蓋を開けた。
本当に。
子供のころの夢というのは、なぜあんなにも美しいのか。
TLOYと掘られた時計の中にはおとぎ話が映し出されている。むかしむかし、まだおとぎ話を読むことを許されていたころの、優しい__空想世界。
かちかち、ゆっくり、確実に、確かに時計は時間を刻んでいる。しかしそのうえから、優しい物語が映し出されているのだ。時計としての役割を半ば放棄していると言ってもいい。絵本のように薄っぺらいゆめものがたり。
トロイは耳を傾ける。
シンデレラは硝子の靴で幸せを勝ち取れたよ、白雪姫は王子様のキスで目覚めることができたよ、そんなありきたりなものもあれば、敵が現れて大ピンチ、仲間と一緒に大勝利、そんな魔法少女もいる。古今東西ありとあらゆる甘い雲が集められている。
それが何なのかはよくわからない。
だけどトロイは、幸せ、幸せ……。
うとうとしているトロイは気付かない。
ちょっと目を離している隙に、ぐるぐる、長針は高速回転。短針もそれを追いかける。壊れた時計としてはありえても、正常なそれではどう考えてもありえない軌道を描いていること。
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐるぐる。
優しくてキラキラした宝石を詰め込んだ時計は回る。
今はもう幸せな世界の中にいるトロイを置き去りにして。
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