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本当の花
「本当の花を知っているかい、ジズ」
ジズのお祖父さんはそう尋ねました。
「花ならそこにあるわ」
ジズはお祖父さんの寝ているベッドの横のテーブルの上、花瓶に挿してある花を指さしました。それは人工植物の花でしたが、幼いジズが唯一知っている花とはそれしかありませんでした。
「ああ、違うんだジズ。あれは本当の花じゃない、まがいものだよ」
「まがい、もの?」
ジズは首を傾げました。お祖父さんはよくジズにはわからない言葉を使うのです。
「嘘っぱちってことさ。ジズ、本当の花はね、あんな水の入っていない花瓶の中では枯れてしまう。本当の花は工場のベルトコンベアの上じゃあなく土の上に咲くんだ」
「でもそれってとっても不自由だわ。水や土がなければ枯れてしまうなんて」
ジズは得意げに最近学校で習ったばかりの不自由という言葉を使いました。土というものがどんなものなのか、それを見たことのないジズにはさっぱりでしたが。
「そうさ、とても不自由で儚いものだ。だからこそ価値があるんだとわたしは思うんだよ」
お祖父さんは何かを懐かしむような顔をして言いました。
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