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第三章 目撃
『トーレン、明日から念願のフロリダね、新しい生活がはじまると思うと本当に楽しみだわ』
トーレンの妻ジェニファーはキッチンでフライパンを持ちながらリビングにいるトーレンへ嬉しそうにそう言った
『そうだな、きっと向こうでは研究の環境が整っているからまたひと仕事出来そうだよ』
そう自信満々に答えたが心の中では不安でいっぱいだった
トーレンは丸メガネにきっちりと眉の上で髪の毛を分けた考古学者で学会で発表するチャンスは何度もあったのだが今だに大きな評価を得られていない
周りのライバル達は進んでアマゾンや未開拓の地へと足を運ぶのに対してトーレンは全くアウトドアではないため、本や資料を元に研究を続けているので発掘隊と比較すると一歩も二歩も後ろを歩くことになってしまうのである
今はジェニファーの仕事が順調なので何とか生活は出来ているが、やはり心の負担は大きなものだった
ジェニファーはブロンドの髪をしたスタイル抜群の女性だ、それもそのはずだが大抵初対面の男はギラギラとして目で彼女のことを見る、そしてトーレンは男がその狼のような鋭い目を光らせたあとに彼女の後ろから、やあといった具合に現れるのが定番だ
『あなた、今日出かけるんでしょ、お昼ごろに街の時計屋に行くとか言ってなかった?』
『ああ、そうだね、向こうへ行く前に昔からお世話になってる時計屋に行って時計を整備してもらいに行こうと思って』
『そう、私もご近所さんにずっと借りていた物があるから返しに行かないと、またこの街に戻ってくるかもわからないからね』
『そうか、わかった、帰りはまだ何時になるかはわからないんだ、もちろん夕ご飯までには戻るよ』
そう言ってトーレンはまた新聞を読みはじめた
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