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3つの街道の中継地として、ここ「ネルサの街」は昔から交易が盛んだったのですが、ここ最近は特に多くの人々が訪れて一気に賑やかとなりました。
それは私達、「第三世代」と呼ばれる若い冒険者が増えた事にも一因があるのでしょう。
50年前に特殊能力である「タレンド」を持つ者が出現して、各地に出現した怪物と戦ったり地下迷宮を攻略したりしていた時代は、正しく“生きる為の戦い”を送る日々だったと聞いています。
でもその人達が結婚して子を作り、更にその子供達が活躍する世代となった今では、新たなラビリンスが出現する事も無く小康状態が続いているのでした。
未だ攻略されない15番目のラビリンスは、その出現場所から周囲の街や村に被害を与える事も殆ど無く、今も王国近衛騎士軍によって監視されています。
そんなある意味「平和」な時が流れれば、悲惨な時代を知らない若い世代は冒険者となって各地の攻略済みラビリンスを巡り、強くなることを求めたり一攫千金に思いを馳せて各地を渡り歩くのです。
そんな人達が必ず一度は訪れる街、それがこのネルサの街なのでした。
そしてそんな多くの人と物が溢れる街で、この「ホーラウンド酒店」が特に人気のあるのには訳があったのでした。
何を隠そう、この店の主人であるグリンもまたタレンドキャリアーだったのです。
と言っても、タレンドキャリアーが店を持っているというのは、今ではそう珍しい事ではありません。
この街にもタレンドキャリアーが経営する飲食店は他にも3つ存在してるしね。
どこも味は申し分ないんだけど、その中でもこの「ホーラウンド酒店」は別格として一目置かれてるのでした。
元々グリンは両親の遺したこの店を継ぐつもりで、料理について毎日勉強していました。
彼の才能も相まってか、料理の腕はみるみる上達していったんだけど、その腕前はタレンドの発動によって飛躍的に向上したのです。
『深い地下迷宮の中でも、美味しい物を食べてその人が笑顔になれば良いよね!』
以前彼は、顕現した事を示す右腕に刻まれたトレンド名を見て、嬉しそうにそう言ってたっけ……。
―――だけど……そんな心優しい彼を、神様は戦いの世界へと誘ったのです。
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