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「はぁー……美味しかったー……」
「ははは……お粗末様でした」
心の底から出た私の感想に、彼は嬉しそうな笑顔を浮かべてそう答えました。
こんなラビリンスの深部で、それも特にちゃんとした道具も無いのに、彼の手に掛かればちょっとした高級料理より美味しい食事が堪能出来ちゃうのです。
それは、ただ単に彼の持つ調理系タレンド「遍く食材に祝福を」のお蔭だけでは無い筈です。
ある程度の恩恵は受けているでしょうが、これはやはり彼の料理に対する愛情に他ならないのでしょうね。
さっき汲んできた地下水で、使用した鍋やら皿を洗っている彼の後姿を見ながら、私は少しポーッとそんな事を考えていました。
彼がラビリンスへと同行すれば、それは彼の夢でもある「深い地下迷宮の中でも、美味しい物を食べてその人が笑顔になれる」と言う事を叶えられるんでしょう。
でも彼の望みは、彼が同行した先ででは無く誰でも何処ででも……なのです。
その実現は決して簡単では無く、ひょっとしたら叶わない夢かも知れないけれど……。
でも彼の食事をこんな場所で食べ終えた私は、今間違いなく幸せを感じているのです。
そして彼の夢が叶えば良いと、心より願わずにはいられませんでした。
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