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希少種出現
巨大な体躯もさることながら、その全身は黒い体毛に覆われています。
通常種ならば茶色い体毛なので、その一目だけでも違いが分かると言うものです。
それに尻尾の数……。
通常は二本の尻尾を有しているんだけど、目の前に現れた針ヤマネコは四本の尻尾でこちらを威嚇するかの様にそれぞれを振っています。
―――ゴクッ……。
知らず私は喉を鳴らしていました。
気付けば額には玉の様な汗も浮かんでいます。
こんなレベルの低いラビリンスでも、希少種ともなればここまでの威圧感を感じるのだと初めて実感しているのです。
もし私がまだ駆け出しの冒険者であったなら、恐らくこの希少種にやられていたかもしれません。
でも今の私にはある程度経験があり、自分のタレンド特性も確りと把握しています。
すぐにやられてしまうと言う事は考えられませんでした。
それに希少種と言っても元がそれ程強くない針ヤマネコ、勝算は十分にあると考えていました。
「メル……これを……」
そう考えていた私の後ろに近づいたグリンが、何かを差し出してそう言いました。
前方に注意を向けながら肩越しに後方を確認したそれは、一切れの干し肉でした。
「……うん……わかった」
それは今必要ないわ……と言い掛けた私は、その言葉を呑み込んでその干し肉を受け取りました。
こういう時にグリンの直感は、驚く程当たるのです。
受け取った干し肉を、私は一口噛み切りました。
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