109人が本棚に入れています
本棚に追加
「……え……と……グリンも聞いた事あるよね……? 『人外魔鏡の魔女伝説』……」
私が口にしたのは、この国でもお伽噺として有名な魔女の事でした。
この大陸の西に広がる広大な森林「オーディロンの森」。
そこには魔女が棲んでいると噂されていて、昔は時折人里に赴いて来ては、子供を攫って行ったという伝説のある森でした。
大人になってそれが童話の類だと認識しているのですが、子供の頃に「悪い子は魔女に攫われる」なんて脅され続ければ、誰も不気味がって用もなく近づく筈もありませんでした。
だけど実際は現地の猟師がそこで野生動物を狩ったり、木の実や果物を採っている恵み豊かな森らしいんですけどね。
そして当然の事ながら、誰かが「お伽噺の魔女」に出会ったと言う話を聞いた事などありませんでした。
私の言葉でグリンは黙り込んでしまいました。流石に突拍子も無さ過ぎて呆れちゃったのかもしれません。
「……あ……あの……ほら……冗談……」
「……そうか……魔女がいたね……」
私が前言撤回しようと口を開いた矢先に、グリンは顔を輝かせて私の方を見ました。
「……え……?」
「何百年も生きてる魔女なら、この薬の効力も飲まずに分かるかもしれない。それに、闇雲に探すよりもよっぽど当てになる話だよ!」
呆気にとられる私に、彼は満面の笑みでそう話しました。
確かに、どこにいるか分からない魔導士系タレンドキャリアーを探すよりも余程明確な場所と言えるけど、それこそ伝説級の話だし、自分が口火を切っておいて何だけど何百年前の話だと言うのよ……。
でも、それでグリンの気が済むならそれも良いと思えました。
最終手段とは言え、王都に行けば間違いなく魔導士に会えるのだし、その前に一つ試しに探してみても良いと思えたのです。
「……でも、話の分からない老婆かも知れないわよ?」
伝説通りだとして、齢数百歳の魔女なのです。
それまでに一切人と関わって来なかったとすれば、余程の偏屈か人嫌い、もしくは石頭に違いありません。
最初のコメントを投稿しよう!