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―――ガサガサガサ……。
暫しの沈黙の後、茂みの中からユックリと現れたのは、先端の尖った三角帽子に引き摺る程長いマントを纏った、長い樫の杖を突く若い女の子でした。
すでに日も暮れて、暗闇と化している森の闇よりも更に黒い出立の女性は、一目見て魔女を思い起こさせる格好をしています。
その雰囲気も、足取りでさえ何処か怯えた様子を見せているにも拘らず、その瞳と口元だけは不敵な笑みを湛えていました。
「あ……あなた達。ここは不可侵なる魔女の領域ですわ。災厄をその身に受けたく無くば、早々にこの場から立ち去りなさい」
彼女が魔女であったとして、その事を差し引いても形勢は私に有利な状態です。
にも関わらず、彼女の高慢な物言いに私は少しカチンと来ました。
「何ですってー……!?」
かなり低めの声に怒気を纏わせて、私はその言葉を彼女へと放ちました。
「……ひっ!」
その気配を感じ取ったのか、前面に押し立てていた彼女の何処か高飛車な雰囲気は即座に鳴りを潜めて、眼に涙を浮かべて後退りました。
どうにも彼女は何をしたいのか要領を得ません。
「……まぁまぁ、メル。……君は……この森の魔女なのかい?」
そんなやり取りを苦笑気味に制したグリンは、目の前の女性に話し掛けました。
普段から物優しい彼の話しぶりは更に優しいものへと変わっていて、彼女に安心を植え付ける事に成功した様です。
「……い……如何にもその通りですっ! 私はこの森に住まう魔女っ! シャルルマンテ=ウェネーフィカと心得なさいっ!」
右手に構えた樫の杖を高々と持ち上げて、シャルルマンテ=ウェネーフィカと名乗った少女は彼の問いにそう答えました。
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