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「いいなあ…紗耶香の髪って綺麗だよねえ…美容院何処使ってるの?」
「え?」
後ろからかけられた声に、新島紗耶香ははっとして振り返った。まだざわついている大学の講義室。紗耶香の長い髪をちまちま弄んでいた友人の久保田美香は、そんな紗耶香の様子に気付いて“おいおいおい”とチョップをかましてきた。
「さては紗耶香殿、寝てござったなー?…あんたそれほんと大丈夫?生活学の講義、出席するだけじゃ単位もらえないんだよ?ちゃんとテストでそこそこの点取らないとー…」
「うう…耳が痛い…わかってるけどさあ…」
おちゃらけた見た目に反して真面目な美香からすると、紗耶香の受講態度はかなり残念なものとして目に映ることだろう。実際、紗耶香は講義の半分を寝て過ごしてしまうことが多い。いかんせん、生活学やら哲学やらの授業は先生の口調が単調すぎて、聞いているとすぐ眠くなってしまうのである。
出席だけは、かろうじてしている。一番の友人である美香が代筆をしてくれるようなタイプでないのもそうだが、いくらなんでも出てもいない授業に出たと嘘をつける度胸はないのだ。だから、半分寝てようがなんだろうが、一応出席はするし紙にちゃんと名前は書いている。が、それだけだ。授業の半分以上は夢の世界に吹っ飛んでしまっていて聞いていない。不真面目と言いたければ言え、退屈な講義の一限目をまるっと頑張れるほどの根性は自分にはないのである。
「柴田先生の声ってさあ、穏やかだし淡々としてるから子守唄にちょうどいいんだよねえ。あれは一種の才能だわ、マジで。できればテストの内容も同じくらいゆるっゆるだと助かる」
うんうんと頷きながら言うと、美香には心底呆れた顔をされた。いや、皆まで言うなわかっている。授業を一分程度も聞いていないのにクリアできるテストなんてものでは、テストの意味が全くないのだ。ちゃんと聞いていない自分が悪い。わかっているとも、一応は。
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