koi ≫ 厚意?

25/26
1146人が本棚に入れています
本棚に追加
/206ページ
「――ひ、姫川(ひめかわ)さんズルいっ!」 「なにがだっ!」 「オレだけ()きだすなんて()ずかし()ぎますっ。こんなのズルいですっ!」  やみくもに(さけ)んだ直後、しかしなぜか姫川(ひめかわ)さんの動きがぴたりと()んだ。  と、()まった……。  ()ぬかと……思った…………。  ぜいぜいと息を切らして姫川(ひめかわ)さんから距離をとる。姫川(ひめかわ)さんはなにやら(むずか)しそうな表情を()かべ、足元を見ながらじっと考えこんでいた。 「……あの……」  (わる)()がないのはわかっている。けれどオレとて姫川(ひめかわ)さんに(さわ)られれば正気でなんかいられない。そんなことをされたなら、オレは間違いなく姫川(ひめかわ)さんを押し倒してしまうだろう。到底、受け身ではいられない。  できることと、できないこと。していいことと、いけないこと。  しては、いけないこと――。  オレから手をだすわけにはいかない。でもオレにはその自信がない……。  ……なんかもう点数(かせ)ぐどころじゃないな。  いっそ告白でもしたほうが男らしい気もするが、()て身になるにはなくすものが甚大(じんだい)()ぎる。この気持ちと()き合ってから、オレは初めて他人を(うしな)うことを(こわ)いと思った。  そう。オレは姫川(ひめかわ)さんを(うしな)うのがなにより(こわ)い。  だからオレはこの道を決めたのだ。姫川(ひめかわ)さんが(のぞ)むオレを、その存在をただ(つらぬ)きとおす。  どんな形をとってでもそばにいる――軟弱(なんじゃく)に逃げようがそれがオレの進む道、いわばオレにとっての前進となる。  たとえそれが、ゴールなき()(まん)(くら)べであったとしても……。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!