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「――ひ、姫川さんズルいっ!」
「なにがだっ!」
「オレだけ剥きだすなんて恥ずかし過ぎますっ。こんなのズルいですっ!」
やみくもに叫んだ直後、しかしなぜか姫川さんの動きがぴたりと止んだ。
と、止まった……。
死ぬかと……思った…………。
ぜいぜいと息を切らして姫川さんから距離をとる。姫川さんはなにやら難しそうな表情を浮かべ、足元を見ながらじっと考えこんでいた。
「……あの……」
悪気がないのはわかっている。けれどオレとて姫川さんに触られれば正気でなんかいられない。そんなことをされたなら、オレは間違いなく姫川さんを押し倒してしまうだろう。到底、受け身ではいられない。
できることと、できないこと。していいことと、いけないこと。
しては、いけないこと――。
オレから手をだすわけにはいかない。でもオレにはその自信がない……。
……なんかもう点数稼ぐどころじゃないな。
いっそ告白でもしたほうが男らしい気もするが、捨て身になるにはなくすものが甚大過ぎる。この気持ちと向き合ってから、オレは初めて他人を失うことを怖いと思った。
そう。オレは姫川さんを失うのがなにより怖い。
だからオレはこの道を決めたのだ。姫川さんが望むオレを、その存在をただ貫きとおす。
どんな形をとってでもそばにいる――軟弱に逃げようがそれがオレの進む道、いわばオレにとっての前進となる。
たとえそれが、ゴールなき我慢比べであったとしても……。
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