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イッてすぐ深い眠りについたせいか、翌朝、オレは鳥の声とともに目を覚ました。お疲れ気味の姫川さんは、すやすやとベッドの上で眠っている。ヘッドボードのメモ帳をそっとのぞいて、今日やるべきことを確認した。重要な事案が1件ある。よりによって今日かと思うが、反面、心の準備はできあがった。そんな気の重い1日を始めるため、音を立てずに布団を片付け、朝食の準備をする。
どことなく身体が痛い。長いあいだ、不自然な体勢で力をこめていたからだろうか。
でも、くたびれてたって今日も仕事だ。
米を研ぎ、炊飯ジャーへとセットする。いくつかおかずを準備して、それから包丁を手にローテーブルでリンゴを剥いた。最近は季節感がない。そう思いつつ、つい買ってしまった代物だ。けどオレの上司はそんなことすら知らないだろう。興味もない。
くるくるとテンポ良く剥いていると、ふと視線を感じて手元から顔を上げた。ながめれば、姫川さんが微動足りせず、ベッドの上からじっとりこちらを睨んでいる。怖い……まるで呪いの人形みたいだ。起きたのなら声くらいかけてくれ。
訝る口調で、なんですか、とたずねやると、姫川さんはちらっと一瞬、テレビのほうへと視線を投げた。しかしすぐに、10分経ったら起こせ、と告げて、不機嫌露わに身体を反転させてしまった。うとうとどころか、すでに覚醒していたはずなのに、たった10分、ベッドの上でなにをするというのだろうか。考えごと? いやいやいや、姫川さんには似合わない。起き抜けの頭をもって、なにかを考えられるようなひとじゃない。ならばなにを? もぞもぞと背中が動いている。なんだ? 気になって立ち上がる――と。
うわ。折り紙、折ってる…………。
清々しい朝を迎え、しかし姫川さんは相も変わらず理解不能な人物で……。
どれがオレの本音なのか。選ぶのは、オレだ――。
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