koi ≫乞い?

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 しかも()びるどころか、議題をそらして暴力に(うった)えるとは……。 「おまえ、ちっともわかってねえな」 「(なぐ)られるようなことですか。別にたいしたことじゃ……」 「ボケが。やすやすと他人に頭()げんじゃねーよ。俺の価値が()がる」 「…………」 「いいか、おまえは俺の部下だ。俺にだけそうしてろ。わかったな」 「…………」 「()()()()()」  姫川(ひめかわ)さんがこつこつと机を()らす。(もと)める答えはひとつしかなかった。  くそ。傲慢(ごうまん)上司め……。 「…………はい」  ()(かた)なく返事をかえすと姫川(ひめかわ)さんは伝票を()まみ上げ、(うす)(カード)をオレのほうへと()げて()こした。ついて()い、と言いたいのだろう。  ……(えら)そうに。  それでも(もん)()(ひら)いたようだ。会計を()ませた姫川(ひめかわ)さんが、背後にたたずむオレの所在(しょざい)(たし)かめながら()(すす)める。 「りん」 「うしろにいます」  その(あし)どりは思った以上に(あや)うくて、けれどオレはいつになく反抗的な心持ちで見ないふりを決めこんだ。どうせ手を貸しても()(はな)されるのが(せき)(やま)だ。  ……(ころ)んでも助けてやるもんか。  ふらふらと先導する上司の背中は、オレの言葉を(うたが)わずして一度もふりかえることはしなかった。オレがうしろにいると言えば、姫川(ひめかわ)さんはいつだってそれを信じる。  そんな平凡たる日常を、オレはこのとき綺麗さっぱり忘れていた。思いだしたのは、(なさ)けなくも鏡の前で頭を(かか)えたときだった。
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