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「旧知のヤツでさ。忙しいときに限ってクソみたいな仕事ばっか持ってきやがる」
「クソ……?」
「穴埋めみたいなもんだ。手違いだかなんだか知んねーけど、自分のケツくらい自分で拭えっての」
それでもわざわざ姫川さんに頼むくらいだ。相当、逼迫していたのだろう。
「でもムックのほうの納品、1日延ばしてもらえて良かったですね」
「当然だろ。同社刊行物の制作抱えてんのわかってたうえで持ってきたんだ。そのくらいの交渉はしてくれる。じゃないと受けねーよ」
姫川さんと話しつつ、オレはそのまま床の上へとしゃがみこんだ。
「そうだったんですか。オレ、てっきり姫川さんが交渉したんだと……」
すると姫川さんは、アホか、と言ってオレの頭をぺしっとたたく。
「こっちはしがない編プロなんだぞ。同じ版元とはいえ、部署が違えば事情なんて関係ねーし、そんなことしたらこっちの評価が無駄に落ちるだけだろ。漫画や小説の作家先生でもあるまいし、気軽に納期引き延ばしたり落としたりしたら簡単に切られる。うちみたいなちっぽけな制作会社なんて星の数ほどあるんだぜ。もしおまえが依頼元だとして、そんなユルイところに次の仕事まわすか?」
「いえ。でも……」
姫川さんの言葉に首をふり、それでもオレは思ったことを口にしてみた。
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