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「向こうだってある程度、余裕もってスケジュール組んでますよね?」
すると姫川さんは、まぁな、と答えながら瞼を擦った。
「そりゃ多少の保険はとってあるさ。でもこっちが遅れりゃそのぶん手間が増えるだろうが。あいつらは1冊2冊をぼけっと待ってるわけじゃない。余裕のない週刊誌や月刊誌もあるし、自社制作も抱えてる。当然、ジャンルや本の内容にもよるけど、いちいち外注に無駄な神経使ってらんねーんだよ。どこが作ろうが期限どおりに希望のものが手元に届けばそれでいいわけ。野垂れ死にしたくないなら覚えとけ」
なるほど。実力をもってしても、この世の中、生き残るということは難しいのだ。
いくぶんシビアな現実に、オレは、はい、と答え、姫川さんの膝元でうんうんとうなづいた。そんなオレの額に向けて、勢いのあるデコピンが命中する。
「――痛っ、た……ぃ……なんすか」
おでこを押さえて涙目で見上げると、姫川さんは加害者とは思えないほど他人事な顔をしてオレに言った。
「でもま、おまえの場合、うちにいるあいだはそうピリピリしなくていいわ。ここでのおまえのウリはそのアホっぽいのほほんさだしな」
「……それ、どういう意味ですか」
「おっかねーのばっかいたってつまんねえだろ。現場ふたりしかいねえんだから」
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