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表情は無関心にみえるけれど、そういうわけではまったくない。ただ、わかりづらいだけなのだ。事務所では姫川さんと差し向かう多くのひとが緊張していて、帰り際、やっぱり怖いとか今日も機嫌が悪かったとか、訊きもしない感想をオレに零したりするのだが、傍から見てると、わりと楽しげにしているときもあったりする。ただし、羨ましいというか、なんとなく悔しいのでそういうのは言わないでおく。いつもすみませんね、と軽く詫びて客人を送りだす。だってそれがわからないのは、姫川さんの表面しか見ていないからだ。たぶん。
「そんなこと言って、どうせオレのこと馬鹿にしてるくせに……」
上目遣いでじろりとその顔を睨めつけると、姫川さんはさも愉快そうに喉を鳴らした。
「被害妄想、膨らませんな。けどまぁそうだとしても諦めるこった。残念ながら、おまえはしがない俺の部下なんだから。だろ?」
そう言われるとぐうの音もでない。仕方なしに同意すると、姫川さんはオレの髪を掻きまわしつつ、唇の端を上げてにっと笑った。
「守ってやるから身を削って上司に尽くせ」
居丈高な物言いで、姫川さんの大きな瞳がまっすぐにオレを捉える。寝不足と疲労でくすんだぼろぼろの笑顔に、それでもオレの心臓は大きな波動でうねっていた。なんだろう、この感じ……。
どくんどくんと高鳴る鼓動が、鼓膜の内側から太鼓のように鳴り響いてくる。
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