― 序 ―

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「え? あ、はい。まぁその、一応は……」  おずおずと答えると安藤(あんどう)さんはさして興味もないといった口調で、若いねえ、とひとこと言った。そしてそのまま、オレの向かいにある自分のデスクへと腰を()える。つられるようにデスクの椅子へと手をかけたオレは、それでもソファー上の人物がいくぶん気になり安藤(あんどう)さんへたずねてみた。 「あの、安藤(あんどう)さん。姫川(ひめかわ)さんって昨日……泊まったんですか?」  すると安藤(あんどう)さんは、そうみたい、と肩をすくめ、手にしたペンでソファーを()した。 「僕が来たときにはすでにあの状態だったから。ま、いつものことではあるけれど。というわけでラッキーだね、鈴村(すずむら)くん」  さりげなく口角(こうかく)を上げるその表情に、オレはこくこくと(うなづ)いた。安藤(あんどう)さんの言葉どおり、このままいけば遅刻がバレずに()みそうだ。タイムカードがないことを、これほどまでにありがたく思ったことがあっただろうか。  ……神様、ありがとうございます。  オレは(なな)()けた鞄のベルトに手をやりながら、胸の(うち)(しん)()にそうつぶやいた。しかしそうは言いつつ、どこか心配にもなってくる。 「でも……あのままにしておいてもいいんでしょうか、ね?」  確かにさして(めずら)しくもないけれど、それでも泊まりということは、なにか急ぎの仕事でも入っているのかもしれない。デスク周りに指示などのメモも残っていないから、(おそ)らくすでに済ませてあるのだろうけれど、そう思う反面(はんめん)、靴も()いたままだし仮眠っぽい感じもする。
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