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「さあ。気になるなら起こしてみたら?」
安藤さんの言葉に押され、オレは静かにソファーのほうへ歩み寄ると、くうくうと寝息をたてている人物をおそるおそる見下ろした。普段と変わらぬ無防備なその寝顔……。
かなり見慣れてきたとはいえ、それでもいざ眼下にするとどきまきと鼓動が跳ねる。
……やっぱこのひと、すげー綺麗だよなぁ。
ほっそりとした華奢な体躯と、美麗というべき整った顔立ち。なのにひとたび瞼を開いたら、くりくりとしたその大きな瞳の印象で驚くほど童顔に見える。天は二物を与えずと言うけれど、仕事はできるし、このひとの場合、うっかりと与えすぎていろいろとおかしくなってしまったのかもしれない。もちろん、内面が、という意味で。
「あの、姫川さん」
ずり落ちそうになっている身体を遠慮がちに揺すると、うーん、とむずがるような呻き声がひとしきりかえってくる。可哀想かなと思いつつ、それでも再び細い肩に手を置いたところで、不機嫌さを纏った唸りが低く響いた。
「…………何時」
「えと、9時20分です」
そう答えるや、姫川さんはむくっと起きだしオレを見やった。
「すみません。仮眠だったらと思って……念のため、声かけたんすけど」
言葉を投げるも、姫川さんはぼんやりとしたまなざしで、オレの顔をただじっとながめている。ビー玉みたいな漆黒の瞳が、まるでもの言わぬ人形のように映って見えた。
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