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「濃さ、どうします?」
ビル共同の給湯室へ向かうべく、必要な備品をとりだしおぼんに載せる。
「適当」
姫川さんは短く答えて気怠そうに立ち上がると、あくびをしながらぼりぼりと頭を掻いた。咥え煙草でデスクへ向かい、小さな身体をやや乱暴に椅子へと投げる。
「あー怠ぃ……」
相も変わらず容姿とは対極過ぎる男らしさ……というか、ようするにこのひとは普段の言動がひどくがさつだ。
……もったいないよな。
もともと無表情でとっつき難い性格のようだし、正直というか、思ったことをずばずばとはっきり言うので、場合によっては冷たいとか怖いとか、そういった印象を受けるひとも少なくない。そのうえ、なにを考えているのかわからないところもある。容姿が整っているだけに、そういう面が顕著に映るだけかもしれないけれど、どこか変わっているというか、とにかく、他人とは違うオーラを垂れ流しているのは間違いない。
……不思議なひとだ。
脳裏の隅でそんなことを考えつつ、オレはおぼんを片手に安藤さんへと声をかけた。
「安藤さんはどうします? 姫川さんは寝起きなんでちょっと濃いめに煎れますけど」
「姫川さんと同じでいいよ。悪いね」
いえ、と答えた瞬間、まるで空を切るみたいにいきなりタオルが飛んできた。ぎょっとしつつもとっさに片手で掴みとり、ことなき結果にほっと胸を撫で下ろす。
「おー。若者はずいぶんと反射神経がいいな」
まるで他人事のようにぱちぱちと手を叩く姫川さんを、オレは諫める視線でやや鋭く睨みつけた。
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