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koi ≫虎威?
とんでもないことをしてしまった。
鏡に映った自分の顔。ホテル独特の淡い光をもってしても、青ざめているのがはっきりと見てとれる。どうしてあんなことをしたのだろう。
あんな……姫川さんにあんなことを……。
部屋がツインだったことにほっとして、そしたらなぜか気が大きくなっていた。姫川さんがあまりにも強情で頭に血が上った。そうなる理由はいくつもある。
けれど今となっては、それらはすべて言い訳にすらならなくて……。
「……なにやってんだよ、オレは」
飲んでもいないオレのほうが興奮し、アルコールの入っていた姫川さんは冷静だった。
賭けの真意を言い争って、みずから問い詰めておきながら、なのに本当のことを聞きたくなかった。いつ飛びだすかわからない肯定の言葉を恐れつつ、なにを言っても一点張りで否定する姫川さんの態度が嬉しく思えた。それが心地好くて、何度聞いても足りなくて、方向性を見失って、思考回路がぐちゃぐちゃになって、それで……そしたら……。
姫川さんがおかしなことを……言う、から……。
備え付けの鏡台前でへたりこみ、手のひらへと視線を移し溜息をついた。汗ばんだ肌の上には、プラスチックの丸いかけらが載っている。どれも申し訳程度の糸くずが不自然に絡んでいて、矢庭に持ち場を奪ったオレを恨みがましく睨んでいた。
「……どうしよう」
這いつくばってかき集めたボタンの数は、どうしたって足りそうになかった。それほどの勢いで、姫川さんのシャツを引きちぎったということだ。
全部探して縫い止めたら、元の状態へと戻ってくれるだろうか……。
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