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koi ≫ K.O 愛?
初夏を滲ます梅雨も明け、いつの間にやら蝉の羽音が都会の空気を震わせている。
「……うーあぢぃ……」
その忙しなさ、まるでオレの心情みたいだ。まったくもって心安まるときがない。
来週から作業が一気に詰まってくるので今日は早めに出社した。早めと言っても、たかだか1時間程度だが。
「おはよーございまー……ん? 涼し……い?」
かといって、3時間早く来たって誰も褒めてはくれやしない。ようするに単なるおのれの心意気。ここしばらく余裕のあるスケジュールが続いていたので、そろそろ緩んだ腰紐をしっかりと結んでおかねばならないと思っただけだ。なぜなら……。
「……たく。今から泊まってどーすんだよ」
オレの場合『仕事=私事』でもあるからだ。
まぁ『上司=恋人』と……言えないのが不本意ではあるけれど、それでもオレは未来へ向かい、今日も勾配きついその内側の坂道を、汗水流してせっせと行き来している。
契りを交わして数週間――。
オレはオレのすべてを捧げ、どんなときでもこのひとの部下となった。
「ま、起きるまではほっとく……うわぁっ!」
ちなみに『このひと』とは、出社してソファーへと歩み寄るや、だしぬけに抱きついてきた、このひと、だ。
姫川雪人。33歳。オレの上司(社外含む)。
「ちょ、姫川さんっ……」
ナマケモノのようにオレの首へとぶら下がる我が上司は、お得意の寝ぼけ眼を綺麗なお顔へ貼り付けて、早朝とは思えないヤラしいキスで迫ってくる。
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