koi ≫ K.O 愛?

1/10
1145人が本棚に入れています
本棚に追加
/206ページ

koi ≫ K.O 愛?

 初夏を(にじ)ます梅雨も()け、いつの()にやら(せみ)()(はおと)が都会の空気を(ふる)わせている。 「……うーあぢぃ……」  その(せわ)しなさ、まるでオレの心情みたいだ。まったくもって心(やす)まるときがない。  来週から作業が一気に()まってくるので今日は早めに出社した。早めと言っても、たかだか1時間程度だが。 「おはよーございまー……ん? (すず)し……い?」  かといって、3時間早く来たって誰も()めてはくれやしない。ようするに(たん)なるおのれの心意気(こころいき)。ここしばらく余裕のあるスケジュールが続いていたので、そろそろ(ゆる)んだ腰紐(こしひも)をしっかりと(むす)んでおかねばならないと思っただけだ。なぜなら……。 「……たく。今から()まってどーすんだよ」  オレの場合『仕事=私事』でもあるからだ。  まぁ『上司=恋人』と……言えないのが不本意ではあるけれど、それでもオレは()()()かい、今日も勾配(こうばい)きついその内側(うちがわ)の坂道を、汗水(なが)してせっせと()()している。  (ちぎ)りを()わして数週間――。  オレはオレのすべてを(ささ)げ、どんなときでもこのひとの部下となった。 「ま、()きるまではほっとく……うわぁっ!」  ちなみに『このひと』とは、出社してソファーへと(あゆ)()るや、だしぬけに()きついてきた、このひと、だ。  姫川(ひめかわ)雪人(ゆきひと)。33歳。オレの上司(社外(ふく)む)。 「ちょ、姫川(ひめかわ)さんっ……」  ナマケモノのようにオレの首へとぶら下がる()が上司は、お得意の()ぼけ(まなこ)を綺麗なお顔へ()り付けて、早朝とは思えないヤラしいキスで(せま)ってくる。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!