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koi ≫ 厚意?
人間とは不思議な生きもので、恐ろしく不自然たる珍事でも、おのれが納得すればわりとすんなり許容できる。もとより、この場合『納得』ではなく『慣れ』であり、『許容』というより『諦念』と言ったほうが正しいのかもしれないが……。
「今日はまた、いつにも増して難解だな……」
ソファー上の姫川さんを見下ろすと、相も変わらず綺麗なお顔で、それはもうすやすやと安眠を貪られている最中だ。かたやオレはと言えば、初夏の陽射しに唆され、珍しく早起きなんぞしてしまい、けれど特にすることもなくその結果、普段より1時間近く早い時間に会社へとたどり着いた。滅多にない1日の出足を褒めてくれとは言わない。それでも優等な出社一番の出来事がこれでは、爽やかな気分も削ぎ落とされるというものではないだろうか。
「どういう経緯でこうなったんだ?」
普段ならばその姿をありがたく拝見させていただくところ、しかし今日ばかりは、到底、そんな気にもなれなかった。というか、一目では理解しがたい物体が、姫川さんの衣服から飛びだしている。しかもなにげに……。
「……生臭い……」
過去の経験上、無理に起こすと面倒になる可能性が高いので、とりあえずそのまま放っておくことにした。それがいい。この光景は見なかったことにしよう。
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